リタイア後の60代夫婦でも、甲斐犬は飼える?

走る甲斐犬の子犬

これまで仕事や家事、育児で大忙しだったシニア世代。定年退職して子どもも独立すると、時間と気持ちの余裕ができます。「犬を家族に迎えたい」と考えるご夫婦も多いことでしょう。

愛らしい小型犬もいいけれど、番犬役も果たす凛々しい甲斐犬を飼ってみたい……と思っていても、散歩やしつけのことなど、不安も多いはず。この記事では、「リタイア後の60代夫婦」にも甲斐犬を飼うことができるのかどうかを検証しました。

甲斐犬を飼うのに「向く飼主」「向かない飼主」とは?

甲斐犬龍馬の子犬の頃のおすわり

甲斐犬は「甲斐犬の魅力を知ると、もう他の犬種を相棒にする気にならない」「次もまた甲斐犬と暮らしたい!」と、飼主をとことん魅了する犬種です。では甲斐犬は、リタイア後の60代夫婦でも飼えるのでしょうか?

結論からいうと、飼うことは可能です。実際に70代になってから甲斐犬を飼い、想像もできなかったほど充実した毎日を送っている飼主もいます。

ただしシニア世代にとって、甲斐犬は決して容易に飼える犬ではありません。

甲斐犬は、身体が大きく運動量も多い犬種です。「健康で足腰が強い」「いざというときには甲斐犬を制御できるだけの力がある」といった人でなければ、飼うことはむずかしいでしょう。

また、どの犬種にも共通することではありますが、甲斐犬は特にしつけが重要です。

なぜなら個体差はありますが、甲斐犬は基本的に気性が荒い犬種だから。たとえば「喧嘩を売られたら、どんな犬が相手でも喧嘩を買ってしまう」「野良猫を見つけると、驚くような猛ダッシュで追いかける」といった体験談も……。

きちんとしつけできなければ、“荒くれ者”になってしまう可能性があることを、しっかり頭に入れておかなくてはなりません。

そのため「犬を飼うのがはじめて」「ベタベタしながら一緒に遊びたい」と考えているなら、甲斐犬は適していません。逆に、甲斐犬のそうした気質を理解して、信頼関係を築きたい人には魅力のある犬種といえるでしょう。

甲斐犬を飼う前に知っておきたいこと

こちらに駆け寄る甲斐犬

実際に飼ってから「こんなはずではなかった……」と後悔しては、お互いに不幸になってしまいます。ぜひこれからお伝えすることをしっかり考えてから、飼うか飼わないかを判断してくださいね。

(1)身体が大きく、シニア世代には重たい

シニア世代が甲斐犬を飼うなら、まず大変なのが“大きくて重い”ということです。

甲斐犬の体重は14~18kg、人間の子どもで言えば大体5歳、幼稚園の年長さんぐらいの重さです。シニア世代が抱き上げるのは意外と大変ですね。

一般的に、シニア向きの犬としてすすめられるのは小型犬です。それもそのはず、犬を飼えば何かとお世話する際に、抱き上げることがあるからです。

しかも、犬も年をとれば足腰が弱り、介護が必要になることもあります。寝たきりになるケースもあります。そうなると食事の際もサポートが必要です。床ずれを防ぐために、数時間に一度寝返りを打たせてあげなくてはいけません。

その重さが、場合によっては20kg近いとしたら……かなり大変ですよね。

もし自信がないなら、甲斐犬ではなく他の犬種にしたほうが良いでしょう。たとえば日本犬の中でダントツの人気を誇る柴犬だと10kgほど。甲斐犬と比べるとずいぶん軽いので、負担が違います。

さらにひと回り小さめの豆柴なら、成犬になっても体重は4~6kgぐらい。シニアでも楽に抱き上げることができますね!

(参考)まるでぬいぐるみ!豆柴の特徴は?性格や寿命、大きさを解説

(2)かなりハードな散歩が必要です

いまも現役の猟犬として活躍する甲斐犬は、とてもタフ。求められる運動量がかなり多めです。毎日の散歩も、シニア世代にとってかなりハードな運動になりそうです。

散歩は「朝夕30分~1時間ずつ×2回」が理想。要は毎日「トータル1~2時間」は散歩が必要ということです。

(※甲斐犬の散歩について詳しくは:甲斐犬の散歩にて)

実際に飼っている方の体験談を見てみると「時間が許せば幾らでも歩いて行ってしまう」「平気で2~3時間歩くし、よく走る」とのこと。甲斐犬は、とにかく体を動かすことが大好きです。

クマやシカなどの猟犬として活躍していた甲斐犬は、脚力も大したもの。足場の悪い山岳地帯を、縦横無尽に走り回っていたのですから、険しい岩場もスイスイ上ります。だから山道などの散歩も大好きなんです。

「あまり長い時間の散歩はちょっと……」「散歩で坂道を上るなんて、とんでもない!」という方なら、甲斐犬の散歩につき合ってあげるのはしんどいでしょう。

運動不足になると、ストレスが溜まる原因になります。甲斐犬の散歩に付き合う体力と脚力に自信がないなら、甲斐犬を飼うことはおすすめできません。

逆に「昔から運動していたので、身体を動かすのが大好き!」「犬と一緒に山登りできるなんて楽しそう!」と、運動を楽しみと思える方なら、甲斐犬と充実した時間が過ごせることでしょう。

(3)きちんとしたしつけが大事!

甲斐犬に限りませんが、ただかわいがるだけでは犬と信頼関係は築けません。きちんとしたトレーニングを行って、飼主が主人であることを教えてあげなくてはならないのです。

甲斐犬の性格を紹介するとき、必ず使われる言葉が「一代一主」です。甲斐犬は、一度自分が主人と決めた人に、とことん忠誠を尽くすのです。

甲斐犬は、主従関係さえきちんとしていれば、飼主に対して従順で、この上なく忠実です。とても賢く、判断力が優れています。言葉の理解度もずば抜けています。

「場の空気を読む」「飼主の気持ちを読むのがうまい」と、多くの飼主が口を揃えて言います。

たとえば「子ども嫌いなのに、たまにしか来ない3人の孫たちには無条件で心を許す」「トイレトレーニングをしたことがないのに、一回も粗相をしたことがない」という経験談も!

甲斐犬は、場の雰囲気や飼主の様子を見て、自分がどうふるまうべきかを、冷静に判断できる犬なんですね。

逆に、主人と認めなければ、言うことを聞かない犬になってしまう可能性もあります。頭がいい分、人間側がリーダーとしてしっかりしないと、扱いにくくなるケースもあるのです。

犬のしつけに関する本やDVDもたくさん出ています。甲斐犬を飼おうかどうか迷っているなら、まずは本を買い、自分たちにもできそうかどうかをシミュレーションしてみるのも良いでしょう。

(4)お金がかかる

甲斐犬に限りませんが、犬を飼うと思いの他お金がかかることも、考えておかなくてはなりません。

まず、甲斐犬を購入するのに費用がかかります。甲斐犬の価格の目安は10万~15万円です。血統書付きの甲斐犬だと、さらに値段が高くなる傾向があります。

加えて、ケージやお散歩グッズ、おもちゃを揃える初期費用が必要です。飼い始めてからは、毎月のエサ代にケア用品代、予防注射代、年をとれば介護用品やおむつ代もかかります。病気やケガになれば、医療費もかかります。

別記事「犬を飼育するのに必要な「生涯費用」はどれぐらい?」でも紹介したように、甲斐犬をはじめとした中型犬を育てるなら、生涯費用はおおよそ250万円かかると言われています。

旅行に行くときも、犬を残して家を空けることはできません。ペットホテルに預けていくなら、自分たちの旅行費用に加えて、ペットホテル代も追加で必要です。

独立した子どもたちも、結婚するときが来ることでしょう。孫が生まれたら、出産のお祝いに初節句、お誕生日と、成長の節目ごとにお金が必要になります。家を建てたり分譲マンションを買うことになったりすれば、頭金を親が出すこともあるでしょう。

夫婦二人になって悠々自適の暮らしをするつもりが、犬を飼ったことで家計が苦しい……そんな事態に陥らないかどうか、事前に資金計画を立てておくことをおすすめします。

(5)徹底的な脱走防止策が必要

甲斐犬は、山岳地帯を自由自在に走り回れるような脚力を持つ犬です。1mぐらいの高さなら、平気で飛び込えてしまいます。

なんと「お城の壁のようなほぼ垂直の石垣でも、高さ3mくらいは平気で駆け上がる」という経験談もあるほど。 驚くほどの身体能力ですね!

庭で外飼いするなら、甲斐犬を迎え入れる前に、2m以上の塀やフェンスで囲っておく必要があります。

もしも全体を覆うのがむずかしいなら、小屋のまわりだけを柵で囲うという方法もあります。ただし下が地面だと、穴を掘って脱走することもあります。下に金網を敷いておくなど、下からも逃げられないようにしてくださいね。

▼便利グッズ:トップパネルもつけられる柵

パネルの増減で広さを調整できる柵なら、スペースを自由に変えることができます。「まさか!?」と思うような高さでも飛び越えるのが、甲斐犬の脚力です。できれば、トップパネル(天井)も別売されている柵を選びましょう。

甲斐犬も他の犬と同様、雷が苦手です。雷が鳴るとこわがってパニック状態に陥ります。大きな声で鳴き叫んだり、暴れたり、高い柵を飛び越えようとしたりする犬も多いのです。

天井部分は、ボルトでしっかり固定するものが安心です。ただ閉めているだけだと、雷怖さに必死でこじ開けて逃げることもあります。

当然ながら、作りの頑丈なものは値段も高くなります。でも甲斐犬を買うなら、ぜひ万全の状態にしてくださいね。

↓イメージ
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さらに、考えておきたいこと

川を走る甲斐犬の子犬

ここまで、甲斐犬を飼うにあたって知っておきたいことをお伝えしてきました。繰り返しになりますが、シニア世代にとって甲斐犬は、決して飼えない犬ではありません。とはいえ容易に飼える犬でもないのです。

甲斐犬に限りませんが、シニア世代が犬を飼うなら、介護や医療の問題もしっかり考えておかなくてはなりません。

(1)シニア世代に負担の大きい甲斐犬の介護

近年、犬の平均寿命は延びてきています。そのため介護が必要な老犬も増えています。足腰が衰えて歩けなくなったり、トイレの失敗が増えたり、夜中に泣いたり……そうした老いの症状が現れると、犬も介護が必要になります。

床ずれを防ぐため、一定時間おきに寝返りさせてあげたり、食事のたびに抱きかかえて、すべて食べさせてあげたり。なにぶん大きい犬ですから大変です。

しかも犬が高齢になる頃には、飼主も同じように年齢を重ねています。もしかすると夫婦のどちらかが健康上の問題を抱えて入院が必要になったり、介護が必要になったりしているかもしれません。

そうなったときに、世話を頼める家族や親戚・知人などが近所にいるでしょうか?シニア世代が犬を飼うなら、考えることを避けて通れない問題です。

甲斐犬を飼うなら、もちろん「最後まで自分たちで責任をもって面倒をみる!」という覚悟は必要です。でも夫婦の事情が、その状況を許さない場合もあります。いざというときにお世話を頼めるのか、飼う前に確認しておくことをおすすめします。

実際に飼い始めたら、世話に関するお願いを書面にまとめておきましょう。いざというときに焦らずにすみます。

どんなドッグフードが好きなのか、かかりつけの動物病院はどこなのか、好きなおもちゃは……など、愛犬に関する必要な情報を、普段からまとめておくようにしましょう

(2)シニア犬になると医療費も増える

犬も年齢を重ねると、人間と同じように病気にかかりやすくなります。人間には健康保険がありますが、犬にはありません。医療を受けた場合、飼主が100%自己負担することになります。

犬の医療費は、想像以上に高額です。甲斐犬は比較的丈夫で、“病気知らず”とも言われるほど。とはいえ高齢になって足腰が弱れば、ケガのリスクも高くなります。たとえば骨折して手術・入院すれば数十万円かかるということも、決して珍しくないのです。

費用がかさむからと言って、病気やケガをそのままにはしておけません。ご夫婦も高齢になった状態で医療費が捻出できるのか、資金計画を立てておきたいものです。

いざというときの負担を軽くするためには、ペット保険に加入しておくのも一つの手段です。詳しくは別記事「ペット保険とは?手厚い医療を受けるための基礎知識」で解説していますので、ぜひ参考にしてくださいね。

一緒に暮らすことで得られる楽しみは?

甲斐犬龍馬の伏せの姿

ここまでは、甲斐犬を飼うことの大変さを中心に見てきました。リタイア後の60代夫婦が甲斐犬を飼うのは、大変なことです。生半可な覚悟では飼えません。

でも、甲斐を飼ったことのある人は「飼って味が出る犬種」と言います。飼うのが大変だからこそ、甲斐犬との暮らしでしか得られない楽しさや充実感があるのも事実なんです。

甲斐犬との散歩は、毎日大変です。でも、ドロドロになりながら無我夢中で穴を掘ったり、お気に入りの用水路や川を見つけると飛び込みたがったり。そんな無邪気で元気な姿を見ると、飼主まで気持ちが明るくなります。

シニア世代といえば、長年の仕事や家事、育児にひと段落つく時期。ほっとする一方で、心にぽっかり穴が開いてしまう人も少なくありません。

そんなときに甲斐犬と過ごしていれば、さみしがっているヒマもありません。「あっという間に一日が過ぎていく」という経験者の言葉は、決して大げさではないのです。

甲斐犬の遊びに付き合うのは体力的には大変なのかもしれません。でも、できる限り自然の中に連れて行ってあげることが、飼主の心身の健康にもつながるのかもしれませんね。

甲斐犬のしつけは大変です。一筋縄ではいきません。でも一度主人と決めた相手には、どんなことがあってもとことん尽くします。心を許した相手には、甘えん坊な一面も見せます。そんなギャップも、甲斐犬の魅力です。

そして飼主を心から愛し、自分も家族の一員としてふるまいます。とある甲斐犬は、飼主である老夫婦の口げんかが始まると、最初はじっと聞き、「ワン!」と一喝して止めるのだとか。なんと賢く、愛情深い犬なのでしょう!

甲斐犬は、一緒に過ごす時間が長くなればなるほど、飼主をトリコにします。「あれほど犬を愛せるとは思わなかった」「全力で想いにこたえてくれた」「犬のすばらしさを教えてくれた」など、甲斐犬を飼うことで人生観が変わった飼主も少なくありません。

甲斐犬は気性が荒い面もあります。でも、どんな犬に育つかは飼主次第です。

甲斐犬との幸せな生活を楽しんでいる飼主は「甲斐犬は飼い主がしっかりしつけをすれば怖くない犬です」「どういう飼い方をしたら凶暴になるのかが、逆に不思議」と言います。

狂暴な犬だと恐々育てれば、乱暴な犬になるかもしれません。でも優しい犬だと思って愛情いっぱいに育てれば、落ち着いた優しい犬になるのですね。

リタイア後の60代夫婦が、甲斐犬を飼うのはオススメできる?できない?

寝転んだ甲斐犬龍馬の子犬の頃

第二の人生に踏み出そうとする60代夫婦が甲斐犬を飼うことは、おすすめできるのか?それともできないのか?

その答えは、「体力面」と「しつけへの覚悟」にかかっています。

甲斐犬は体も大きく、長時間の散歩も必要です。「足腰が弱ってきて歩くのがしんどい」「持病があり、あまり体力がない」という場合は、甲斐犬を飼うことが負担になるかもしれません。

甲斐犬の良さを引き出すためには、きっちりとしつけをする必要がありますし、そのためには甲斐犬の気質そのものを十分に理解する必要があります。

甲斐犬は「何とかなるだろう」といった軽い気持ちで飼える犬ではありません。きちんとしつける覚悟があることが、甲斐犬を飼う上での大前提です。

でも、「少なくとも今は健康体そのもの」「むしろ身体を動かすことが好き」などと体力面に自信があり、しつけに対しても覚悟が決まっているなら、甲斐犬との生活はかけがえのないものになるでしょう。

個体差はありますが、メスのほうがおとなしい傾向があります。より落ち着いた甲斐犬を飼いたいなら、メスを選ぶというのも一つの手段ですね。

まとめ

リタイア生活を送る60代夫婦でも、甲斐犬を飼うことはできます。ただし条件があります。責任をもって飼い続けるには、体力が必要です。甲斐犬ならではの良さを引き出すためには、覚悟を決めてしつけることも重要です。

もし両方が揃っているなら、ぜひ“甲斐犬との生活”を叶えてください。きっと夫婦の会話も増え、幸せな毎日になるはずです。価格の相場や人気の甲斐犬など、飼う前に知っておきたい情報を別記事で紹介しています。ぜひあわせてご覧くださいね!

(参考)甲斐犬の価格は?飼う前に知っておきたい値段の目安

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そばこ