甲斐犬には、男の子たちを魅了する野性味があります。ただしその分、しつけも大変です。子どもに「飼いたい!ちゃんと面倒を見るから!」とせがまれても、すぐには首を縦に振ることができませんよね。
この記事では、「小学生男子が二人いる家庭」で甲斐犬を飼うことは、おすすめできるのかどうかを検証しました。飼うなら役立てたい便利グッズも併せて紹介します。
目次
小学生がいる家庭で甲斐犬を飼う基本条件
小学生にもなると、犬を飼いたがる子も増えます。まるでオオカミのように威風堂々とした甲斐犬は、小学生がいる家庭でも飼うことができるのでしょうか?
結論からいうと、飼うことは可能です。実際に、甲斐犬は小学生のいる家でも飼われています。
中には、甲斐犬の展覧会で、ハンドラーと呼ばれる引き手を務めた小学生もいます。しかも優勝の栄冠をつかんだのですから、すごいですよね!
とは言っても、甲斐犬は決して容易に飼える犬ではありません。飼い始めてから「こんなはずじゃなかった……」となっては、犬も飼主もお互い不幸です。まずはどのような面が大変なのかを知った上で、飼うか飼わないか判断してくださいね。
(1)身体が大きく、女性や子どもにとっては重たい
甲斐犬を飼う上でまず大変なのが“大きくて重い”ということです。
甲斐犬の体重は14~18kg、人間の子どもで言えば大体5歳、幼稚園の年長さんぐらいの重さです。
身体が大きく、力持ちの小学生なら大丈夫かもしれませんが、子どもが抱き上げるには重め。お母さんにとっても、楽々抱えられる重さではありません。
特に重さがネックになるのは、犬が年齢を重ねてシニア犬になったとき。犬も人間と同じで、年をとればいずれは“介護生活”がやってきます。
寝たきりになれば、数時間おきの寝返りやオムツの交換、抱きかかえての食事……そんな毎日が続きます。20kg近い甲斐犬を介護するのは、かなり大変ですよね。
もちろん介護が必要になる頃には、子どもたちも大きくなっています。ずいぶん力もついていることでしょう。軽々と抱き上げるまでに成長しているかもしれません。
でも、介護が必要なときに子どもに頼れるかどうかは、別問題。どんなに子どもがねだって飼い始めても「実際にお世話をするのはお母さん」というのが現実です。
ましてや犬の介護が必要になる頃には、子どもたちは中学生や高校生。部活や塾、友だちとのつき合いで忙しい年齢に入っています。中心になって介護をするのは、期待できないと思ったほうがいいでしょう。結局はやはり、お母さんが世話をすることになるのです。
もし自信がないなら、飼うのをあきらめる、もしくは他の犬種にすることをおすすめします。たとえば日本犬の中でダントツの人気を誇る柴犬だと10kgほど。甲斐犬と比べるとずいぶん軽いので、負担が違いますね。
(参考)まるでぬいぐるみ!豆柴の特徴は?性格や寿命、大きさを解説
(2)かなりハードな散歩が必要です
甲斐犬を飼うなら、ハードな散歩に付き合う覚悟が必要です。いまも現役の猟犬として活躍する甲斐犬は、とてもタフ。求められる運動量がかなり多めです。
散歩は「朝夕30分~1時間ずつ×2回」が理想。要は毎日「トータル1~2時間」は散歩が必要ということです。
(※甲斐犬の散歩について詳しくは:甲斐犬の散歩にて)
飼主の体験談を見ていると、「平気で2~3時間歩くし、よく走る」といった声も。しかも、足場の悪い山岳地帯でクマやシカなどの猟犬として活躍してきた犬ですから、険しい岩場も何のその。山道に連れて行くと、喜んでスイスイ上ります。
甲斐犬は気性の荒い一面があり、身体も大きいため、子どもだけに散歩を任せるのはむずかしいでしょう。結局はお母さんが散歩に行くことになるはずです。
仕事や家事、育児をこなしながら、しかも暑い日も寒い日も、そして雨の日も、長時間散歩に連れて行けるでしょうか?甲斐犬が満足できるように、ときには山道などに連れて行く時間や心、体力の余裕があるでしょうか?
夫婦共働きで忙しければ、散歩の時間をつくるのは大変です。しかも都市部で暮らしていれば、思い切り運動できる機会を設けるのもむずかしいでしょう。でも、それは人間の事情。犬には通用しません。
よく「運動不足は、しつけ不足と同じ」と同じと言われます。「犬が言うことを聞かない」「興奮して荒っぽいことばかりする」といった問題行動は、運動不足によるストレスが原因であるケースが多いのです。
甲斐犬の良さを引き出すためには、納得いくまで運動させてあげる必要があります。甲斐犬の散歩に付き合う体力と脚力に自信がないなら、甲斐犬を飼うことはおすすめできません。
でも逆に「昔から運動していたので、身体を動かすのが大好き!」「犬と一緒に山登りできるなんて楽しそう!」と、運動を楽しみと思える方なら、甲斐犬と充実した時間が過ごせることでしょう。
(3)きちんとしたしつけが大事!
甲斐犬を飼うなら、しつけに対する並々ならぬ覚悟も必要です。
個体差はありますが、甲斐犬は基本的に気性が荒い犬種です。たとえば「喧嘩を売られたら、どんな犬が相手でも喧嘩を買ってしまう」という声や、「野良猫を見つけると、驚くような猛ダッシュで追いかける」といった声も。
普段は穏やかな家庭犬として暮らす甲斐犬にも、猟犬としてのDNAが眠っています。きちんとしつけできなければ、“荒くれ者”になってしまう可能性があることを、しっかり頭に入れておかなくてはなりません。
大事な家族として暮らすつもりが、しつけ不足のために“こわい犬”になってしまう可能性もゼロではありません。人間側がリーダーとしてしっかりしないと、扱いにくくなるケースもあるのです。
犬には縄張り意識があります。きちんとしつけておかないと、せっかく家に遊びに来てくれた友だちにも牙をむき、大きな身体と大きな声で、威嚇するように吠え続けるかもしれません。そのために、友だちの足が遠のいてしまったら、悲しいことです。
犬にとって「庭は自分のテリトリー」という感覚です。すると、庭に入ってくる人を見るたびに、追い払おうと吠える習性があるのです。
甲斐犬の良さを引き出してあげられるかどうかは、すべて飼い主次第。甲斐犬は、主従関係さえきちんとしていれば、飼主に対して従順で、この上なく忠実です。特に大事なことは、上下関係を教えることです。
たとえ子どもが毎日エサをやり面倒を見ているからといって、上に見るわけではありません。毅然とした態度で接することが大切です……と言っても、子どもにはむずかしいですよね。
まずは親が正しいしつけを学びましょう。親が犬をしつけ、犬ができるようになった状態で、親が子どもに教えると、スムーズにしつけを受け入れることができるはずです。
近年では、親子で参加できる「しつけ教室」も増えています。まずはプロから“しつけのいろは”を習うのもおすすめです。
▼便利グッズ:しつけDVD
犬のしつけについて、ベテラン訓練士などのプロが監修した「しつけDVD」がたくさん販売されています。本のように活字ではなく、映像なので視覚で情報をとらえられることがポイント!細かい部分が分かりやすいのが魅力です。
「甲斐犬を飼って、本当にしつけができるのだろうか?」と気になるなら、こうしたDVDを見てイメージをふくらませるのも一つの判断基準になりますね。
(4)お金がかかる
甲斐犬に限りませんが、犬を飼うのは物入りです。これから教育資金がかかる時期。犬を飼うことになっても、毎月の家計には支障ないでしょうか?
犬を飼うということは、一人子どもが増えるのと同じ。手間はもちろん、お金の負担も増えます。
まず、甲斐犬を購入するのに費用がかかります。甲斐犬の価格の目安は10万~15万円です。飼い始めるにあたっては、ケージやお散歩グッズ、おもちゃなど、グッズ類も買い揃えなくてはなりません。
実際に甲斐犬との生活がスタートしたら、毎月のエサ代にケア用品代、予防注射代もかかります。甲斐犬は身体が大きく、しっかり運動する分、ごはんもたくさん食べます。
旅行のときにペットホテルに預けるなら、自分たちの旅行代金に加えて、ペットホテル代も必要になるのです。
別記事「犬を飼育するのに必要な「生涯費用」はどれぐらい?」でも紹介したように、甲斐犬をはじめとした中型犬を育てるなら、生涯費用はおおよそ250万円かかると言われています。
家のローンがたくさん残っていたり、収入が不安定だったりするなら、金銭的負担が重くのしかかります。
ましてや子どもの学費がかかる時期とも重なります。大きくなれば、通学定期代やお小遣いも必要になるでしょう。
そんなときに愛犬の手術が必要になり、数十万円の費用が必要になるとしたら?迷わず費用を出すだけの生活ができるのか、事前に資金計画を立てておくことをおすすめします。
(5)徹底的な脱走防止策が必要
子どもも小学生になると、ずいぶんできることが増えます。お母さんもずいぶん楽になったことでしょう。
思い返せばハイハイをしていた赤ちゃんの頃は、目を離すことができませんでした。つかまり立ちをしたり、よちよち歩きするようになったりすれば、なおさらだったはず。
動けるようになった赤ちゃんは、どこに行ってしまうか分かりません。「まさか!」と思うような場所まで移動していて、ひやりとした経験は一度や二度ならずあるはずです。
甲斐犬を飼うのも同じ。まさかと思うほど高い所を飛び越えてしまいます。だから徹底した脱走防止対策が必要なんです。
甲斐犬は、山岳地帯を自由自在に走り回れるような脚力を持つ犬です。1mぐらいの高さなら、平気で飛び込えてしまいます。
たとえば「向こうが見えない堤防のようなところでも、うっかりしているとぴょーんと飛び登ってしまう」といった経験談も。想像を超えるようなかなりの脚力があるのです。
もしも外に出てしまうと、犬は興奮します。勢いよく駆けて行って迷子になるかもしれませんし、道行く人にケガをさせる可能性があります。車が多い場所だと、交通トラブルに巻き込まれるかもしれません。
そして、脱走防止策をとることは、法律に定められた義務でもあります。庭で外飼いするなら、甲斐犬を迎え入れる前に、2m以上の塀やフェンスで囲っておきましょう。
もしも全体を覆うのがむずかしいなら、小屋のまわりだけを柵で囲うという方法もあります。ただし下が地面だと、穴を掘って脱走することもあります。下に金網を敷いておくなど、下からも逃げられないようにしてくださいね。
▼便利グッズ:トップパネルもつけられる柵
パネルの増減で広さを調整できる柵なら、スペースを自由に変えることができます。上から飛び越えることを防ぐために、できればトップパネル(天井)も別売されている柵を選びましょう。
当然ながら、作りの頑丈なものは値段も高くなります。でも甲斐犬を買うなら、ぜひ万全の状態にしてくださいね。
さらに、知っておきたいこと
ここまで、甲斐犬を飼うにあたって、知っておきたいことをお伝えしてきました。甲斐犬に関わらず、他にも犬を飼う上でクリアしておくべきことが色々あります。
(1)犬アレルギーでないことを確認しておく
飼ってから犬アレルギーだと判明すると大変です。前向きに飼うことを考えているなら、犬アレルギーでないことを確認しておきましょう。
犬アレルギーは、犬の毛や唾液などによって引き起こされるアレルギー症状です。主な症状は、咳や鼻水、くしゃみ、そして目のかゆみなど。重症の場合は、呼吸困難や嘔吐といった症状を引き起こすこともあります。
もしかすると「犬の近くにいても、何も症状が出ないから必要ない」と思うかもしれません。でも実は、犬と接触したからと言って、すぐにアレルギー症状が出るわけではありません。時間が経ってから発症するタイプもあるんです。
実際に、犬を飼い始めて数か月経ってから、急に症状が出たという例もあります。そうなると子どもがショックを受けてしまいますよね。
犬アレルギーかどうかは病院で検査を受けると分かります。簡易な皮膚検査なら、結果が分かるまでたったの15分ほど。できれば家族全員でアレルギー検査を受けておくと、安心して飼うことができますね。
(2)ガーデニングを楽しむなら、植物選びに注意
庭で犬を飼うなら、植える花にも注意してください。間違って食べてしまうと、犬に害を与えるものがあるんです。
たとえば水仙やスズランは、中毒症状を起こす植物の代表格。「あんなに可憐な花が!」と驚きますよね。その事実を知らなければ、想像すらしないはずです。
冬から春のガーデニングに欠かせないクリスマスローズも、残念ながら犬にとっては有毒です。もし地植えしているなら鉢に移し替えて、犬から離すようにしてくださいね。
さらに気を付けたいのが、小学校で育てる花の定番、アサガオとホウセンカです。夏休みになると鉢植えを持って帰り、観察日記を書く宿題が出る学校も多いのでは?
愛犬が誤って食べないように、注意してください。必ず手の届かないところに置いてくださいね!
一緒に暮らすことで得られる楽しみは?
ここまでは、甲斐犬を飼うことの大変さを中心に見てきました。甲斐犬を飼うのは楽ではありません。散歩がハードだったり、しつけがむずかしかったり。生半可な覚悟で飼える犬ではないのです。
でも、甲斐犬を飼ったことのある人は「飼って味が出る犬種」と言います。大変だからこそ、甲斐犬との暮らしでしか得られない楽しさや充実感があるのです。
自然が大好きな甲斐犬は、散歩の時間を心待ちにしています。ドロドロになりながら無我夢中で穴を掘ったり、お気に入りの用水路や川を見つけると、ざぶんと飛び込んだり。
元気いっぱいの小学生と甲斐犬、きっといい遊び相手になりますね!犬もOKのキャンプ場に泊まってアウトドアを楽しんだら、お互いにいい経験になることでしょう。
甲斐犬はとても賢く、言葉の理解度もずば抜けています。しつけさえ行き届いていれば、驚くほど賢い犬種です。「場の空気を読む」「飼主の気持ちを読むのがうまい」と、多くの飼主が口を揃えて言います。
きちんとしつけができている甲斐犬なら、小さい子どもの面倒も見るのだとか。1歳の女の子が昼寝から起きると飼主を呼びに行ったり、女の子が振り回しているマラカスが眉間に当たっても、忍耐強く我慢して遊び相手になったり。
甲斐犬は、場の雰囲気や飼主の様子を見て、自分がどうふるまうべきかを、冷静に判断できる犬なんですね。本当にお利口さんな犬なんですよ~!
そして子どもにとって、動物と暮らすことは貴重な経験になります。甲斐犬との生活が、愛情や優しさ、命の尊さなどを教えてくれるのです。
犬は、お世話する人になつくもの。「もっと一緒に遊びたいのに!」「どうしてお母さんにばかりなつくの?」と聞いてきたら、大事なことを教えるチャンス。心をこめて世話することの大切さを伝えてあげましょう。毎日お世話する大変さを実感すれば、責任感も育ちます。
もしも愛犬が病気になれば、子どもたちも心配します。元気になってほしいと願い、懸命に看病する過程で、ますます愛情を深めるでしょう。自分自身が、親から受けている愛情を実感するきっかけにもなるかもしれません。
それに何より、甲斐犬はとても可愛いのです!見た目は強面ですが、実は甘えん坊。飼主を主人と認めると、とことん甘えてきます。そのギャップがたまりませんね~!
「あれほど犬を愛せるとは思わなかった」「全力で想いにこたえてくれた」「犬のすばらしさを教えてくれた」など、甲斐犬を飼うことで人生観が変わった飼主も少なくありません。
子どもたちも思春期に入ります。そんな多感な時期に甲斐犬と過ごす時間は、きっと一生の宝物になることでしょう。
小学生の男の子がいる家庭で甲斐犬を飼うのはオススメできる?できない?
小学生の男の子が二人いる家庭で、甲斐犬を飼うのはおすすめできるのか?それともできないのか?その答えは、「飼う覚悟」と「経済状態」次第です。
子どもたちは、犬を飼うことの意味や、命を預かることの責任を感じているでしょうか?一時の感情の盛り上がりで、もしくは新しいオモチャを買ってもらうような軽い気持ちでねだっていないでしょうか?
ましてや甲斐犬は、特にしつけが問われる犬。しつけすることのむずかしさや大切さも、十分に認識しているでしょうか?
ひとたび犬を迎えたら、10年以上という長い期間、一緒に暮らすことになります。犬を飼うということは、その命を預かるということ。犬の一生に対し、責任をもつことです。
「言うことを聞かないから」といって、途中で投げ出すことは許されません。いいときも悪いときも、ずっと変わらず大事な家族として過ごす覚悟が必要です。
その覚悟を知るために、たとえば「病気になってもちゃんと世話できる?」「寝たきりになっても可愛がってあげられる?」「ちゃんと尊敬される飼主になる自信はある?」と聞いてみるのも一つの手段です。
その自覚と覚悟がないなら、甲斐犬を飼うのはやめたほうがいいでしょう。
特に、お母さんの覚悟が重要です。子どもに世話する意思があっても、子どもも何かと多忙です。平日はどうしても、お母さんにかかる負担が大きくなります。
「フルタイムで働いていて忙しい」「まだ子育てで手一杯」「本当は小さくて可愛らしい犬を飼いたいんだけれど……」と乗り気でないなら、踏みとどまったほうがいいかもしれません。
経済的な不安がある場合も、慎重に判断してください。勢いで飼うのではなく、もう少し給料が上がるのを待ってから飼い始めても、決して遅くはありません。
一方で、「子どもが甲斐犬との生活を心から待ち望んでいる!」「決して楽な暮らしではないけれど、犬を飼うだけの余裕はある」という家庭なら、甲斐犬との生活は充実したものになるでしょう。
まとめ
甲斐犬を飼うことは決して簡単なことではありません。並々ならぬ覚悟が必要です。子どもたちが命の重みを理解しているのか、十分に確認してから飼うようにしてください。親御さんの覚悟や経済力も重要です。
もし条件が揃っているなら甲斐犬を迎え入れて、新たな生活をスタートさせてください。「一代一種の犬」と呼ばれる甲斐犬は、信頼関係を築けばかけがえのないパートナーになります。家族だけでは味わえない幸せが待っているはずです。
価格の相場や人気の甲斐犬など、飼う前に知っておきたい情報を別記事で紹介しています。ぜひあわせてご覧くださいね!